姫野研究室、H3ロケット開発貢献に対しJAXAから感謝状

  • 受賞関係
  • 2024-06-03

2024年5月8日、航空宇宙工学専攻 姫野研究室のH3ロケット開発および試験機2号機打上げ成功への貢献に対し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から感謝状が贈呈されました。我が国の新型基幹ロケットであるH3ロケットの開発と試験機2号機の打上げ成功に大きく貢献したと認められる企業および研究機関等に対して、宇宙航空研究開発機構から贈られたものです。

研究室を代表して贈呈式へ出席した姫野武洋教授

受賞された研究・活動について

大型ロケット打上場(射点)の地上設備には、エンジン排気を逃がすための地下道(煙道)が設けられています。秒読み(カウント・ダウン)を一時停止した後に再開した場合など、運用の条件によっては煙道内に冷却水が多量に滞留した状態で、エンジンを始動させる場合も想定されます。このような場合、エンジン排気が勢いよく滞留水に衝突してしまい、吹き上げられた水がロケット機体や地上設備を直撃して損傷を与えることが懸念されます。安全な打上げのためには、滞留水の量に応じて、煙道内の水の挙動を予測する必要があります。実際のロケットと射点を用いて実験(試運転)をすることも考えられますが、機体損傷のリスクとコストの点から現実的には難しいとされました。

この課題に対し、JAXAから相談を受けた姫野教授と同研究室院生(当時)は、流体力学の相似則に基づく模型実験を考案し、煙道滞留水の挙動予測手法を提案しました。JAXAの協力を得て、種子島宇宙センターH3ロケット射点の1/120縮尺模型を製作したうえで、同研究室が本郷キャンパス工学部7号館に所有する高圧空気源(風洞設備用)を活用し、エンジン排気を模擬した実験を行いました。

その結果、模型実験で観察された煙道滞留水の挙動は、過去のH-IIBロケット地上燃焼試験時、および、H3試験機1号機打上げ時に観察された実機寸法での現象をよく再現していることが確認されました。そのうえで、吹き上げられた水が機体を直撃する危険な水位を課した実験も実施できました。一連の実験から得られた知見は、H3ロケットの運用条件決定に活かされています。

図1 射点の縮尺模型
図2 実機寸法の現象(左)と模型水槽での滞留水挙動(右)

今後の抱負・感想

高い技術を保有する企業と並んで研究室としての貢献を認めていただけたことは、学生にも教職員にも励みになります。相似則と模型実験に基づく流動現象の予測の正しさが、実機スケールで確認できたというのは、まさに流体力学の醍醐味だと感じます。早くデータが欲しいという要求にお応えして、年明け間もない大雪の日に実験を強行したのも、今となっては好い思い出です。今後も、熱流体力学に関する実験と数値シミュレーションを通じ、ロケットや宇宙機の開発と運用に貢献したいと思います。

用語

H3ロケット
H-IIA/Bロケットの後継となる基幹ロケットとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した、液体水素と液体酸素を推進薬とするロケット。2023年3月に試験機1号機の打上げに臨んだが失敗し、2024年2月の試験機2号機の打上げで衛星の軌道投入に成功した。
煙道(排気設備)
ロケット打上げの際に、機体搭載のエンジンから下方へ噴出される排気を側方へ逃がすための流路。高温かつ高速の排気が、機体や打上設備を傷めないよう、機体の真下に深い空間を持たせたうえで、偏向板等により気流方向を下方から側方(水平方向)に変える形状をしている。煙道の構造物それ自体の損傷を抑制するとともに、エンジン排気から発生する音響の機体への伝搬を低減するため、打上げ時には大量の冷却水も放出される。

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